「北海道産天然青のり」をとりまく状況には、海の学びが詰まっています。青のりをきっかけに、海について知り、海とともに生きる未来について考えましょう。
※本企画は、次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる”日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です

青のりってなに?

彩りよく、香り豊かな高級食材

青のりとは、スジアオノリ、ウスバアオノリなど、旧アオノリ属に分類される海藻の総称。色や香り、口どけの良さが特徴です。
「アオノリ」と聞くと、たこ焼きの上にふりかける緑色の粉が思いうかびますが、実はあの多くは「アオサ」という異なる海藻。本物の青のりは、アオサの数倍の値がつく高級食材で、一流レストランや和菓子店で使用されています。

乾燥させた北海道産天然 青のり(ボウアオノリ)

食物せんいやミネラルを多く含む

青のりは、食物せんい、タンパク質、カリウム、カルシウム、β-カロテンなど、健康や美容に役立つ栄養素を多く含みます。

函館の海岸で行った講座にて、青のりを見つけて喜ぶ参加児童

草や木のご先祖さま。酸素を生み出す役割も!

草や木などの植物は、青のりなどの緑色の海藻(緑藻)から進化したといわれています。
また、海藻は二酸化炭素を吸収し、酸素を作ります。青のりは葉の部分を収穫するとすぐに新しい葉が生えるので、とったほうが作り出す酸素が増えます。

見た目が草にそっくり。太陽の光が届く浅い海で育ちます

九州や四国では古くから活用される青のり。しかし、近年は不作

九州や四国では古くから、青のり(スジアオノリ、ウスバアオノリなど)を採取し、特産品として販売してきました。しかし、天然の青のりが激減し、生育環境を制御しやすい養殖でも生産量が減るなど、不作が続いています。

その理由は、地球温暖化で青のりの成長に適する水温の期間が短くなったことや、川や海の水の栄養バランスがくずれる「貧栄養化」などが考えられています。

<参考リンク>
食卓から青海苔が消える?海水温変動とスジアオノリの成長の関係
地球温暖化の進行により、海にも様々な影響が出ており、なかでも冬の低水温下で成長する海藻への影響は大きいといわれています。…青海苔の研究を行っている高知大学総合研究センター海洋生物研究教育施設の平岡雅規准教授に、スジアオノリと海水温の関係について執筆いただきました。
【青のり】大不作で高騰 1kgあたり4万円超え
「青のり粉」が残念なことに販売終了となりました。背景に、青のり粉の不作で値段が高騰し、商品ができなくなってしまったようです。

今、海には様々な問題があります

「北海道産天然青のり」調査

なぜ、北海道産天然青のりは採取・活用されていないのか?
当会は、その事実関係や背景、北海道産天然青のりの商品化の可能性について探るため、2021年に独自調査を行いました。
結果、次のことがわかりました。

  • 北海道南部(函館市、松前町など)の海岸には確かに、青のりが生えている。種類はウスバアオノリ、ボウアオノリなど。
  • しかしながら、北海道の漁師のほとんどは青のりを収穫していない。その理由は、漁師さんがアオノリの自生や商品価値を知らない、コンブなどと違い流通していないため市場で値がつかない、人手不足・高齢化など。
  • 東京の一流料理人は、北海道産天然青のりを高評価してくれた
  • 食品分析会社や老舗メーカーからは「課題あり」との意見があった

以上のことから当会は、北海道産天然青のり活用のために、

認知度アップ、特徴(良さ・悪さ)の把握とそれをふまえた商品化戦略、安定的な原料確保のための人手の確保などが必要と考えます。

さらに、北海道産天然青のりをとりまく状況には海の学びが詰まっており、
地域の子どもたちに向けた海洋教育の推進のために、非常に良い題材であることを再認識しました。

以下に、調査結果に関するサマリーをまとめます。

函館市、松前町における青のりの自生状況

2021年5月、函館市の志海苔海岸で撮影。青のり、アオサの両方が見られた
松前町の海岸で撮影。3月~5月ごろは海岸が緑色にそまるそう
2021年5月、松前町で撮影。緑色の海藻が「青のり」、茶色の海藻は1枚1000円の高値で販売される「岩のり」。同じ海に自生しているが、青のりは採取されていない。
https://youtu.be/Mvo-szEJkqw

2021年5月、北海道内の漁協へアンケート調査

当会は北海道内の青のり収穫状況について把握するため、74漁協にアンケートを送り、50漁協から回答を得ました。その結果は次の通りです。

設問① 貴漁協では、青のりに漁業権を設定していますか
「設定していない」41漁協
「設定している」8漁協
「わからない」1漁協

設問② 貴漁協所属の漁師さんの、青のり収穫について教えてください
「収穫していない」48漁協
「収穫しているが、自家消費している(家で食べているだけ)」2漁協
「収穫して市場におさめている」ゼロ
「収穫して自身で販売している」ゼロ

設問③ 貴漁協管轄の海岸に、青のりは自生していますか
「緑色の海藻はあるが、アオノリかどうかは分からない」25漁協
「自生していない」18漁協
「自生している」7漁協

【注目ポイント】
回答した漁協の96%が「青のりを収穫していない」
残り4%も自家消費のみ。
北海道産天然青のりは一般に流通していないことが分かった。

漁師さんへのインタビュー

< 北海道松前町の漁師 中村さん >

「青のりが生えていることは知っていましたけど、やはり松前町は岩のりが中心。青のりの認知度は低く、まわりでとっている漁師はいません。私は春になると、自宅用に青のりを佃煮にして食べています。色が鮮やかで香りが良いからね。今年、漁師仲間に青のりをとろうよと誘ってみましたけれど…高齢化がすすんでいますから、みんな、新しい海藻に対しては腰が重たいんですよね。」

漁協の方へのインタビュー

 < 松前さくら漁協 吉田さん >

「松前町沿岸は日本海から津軽海峡につながる海面に接し、春はヤリイカ、夏はコンブ、アワビ、ウニ、秋はホッケ、冬はタラ、岩のりと一年を通じてたくさんの海の幸に恵まれています。今まで青のりについては分かっていませんでした。これから可能性がある、という話を聞いて驚いています。」

自治体の方へのインタビュー

 < 松前町役場水産課 渡辺さん >

「本州の名産品である青のりが不漁ということもあり、北海道の海に生えている青のりが大変貴重ということを、耳にするようになってきています。青のりがこの地域の新名物となり、漁業者さんにとって励みになればうれしいですね。」

東京の一流料理人から高評価

当会は2021年春、北海道松前町の漁師さんに依頼し、青のり10kgを収穫しました。その青のりを使った特別メニューの考案を、2名の一流料理人に依頼。各店にて、7月22日(木)海の日から期間限定で提供いただきました。

 <「リストランテアクアパッツア」オーナーシェフ 日髙良実氏 >
本場イタリアの数々の名店での修行経験を生かし、日本の食材を生かした独自のイタリアンを提唱する人気シェフ

「貴重な天然食材・北海道産青のりを使うことができ、うれしく思っています。今回の青のりメニューはお客様からの評判もよく、香りがよいという声を数多く聞きました。今は未利用となっているそうですが、海の資源をうまく活用していきたいと思います。」

リストランテアクアパッツア考案の青のりメニュー
「北海道産天然青のりを練り込んだシャラティエッリ 柚子胡椒風味」

◎お客様の感想◎「料理が運ばれてきたときから香りが漂ってきて驚きました!」「口に入れた時に広がる磯の風味は今まで経験したことがないほどでした。」

<「分とく山」総料理長 野崎洋光氏 >
伝統の日本料理界に新風を吹き込み、NHKを中心にテレビでも活躍中。地産地消や食に関する講演やイベントなどの出演も多数。

「四国や九州では青のりの収穫時期は冬場ですが、北海道では6月ごろまでとれると聞きました。市場に流通すれば、料理人にとっては使える時期が広がってありがたいことです。北海道産天然青のりは、まだ注目されておらず未利用ということですが、これから可能性のある食材だと思います。」

分とく山 考案の青のりメニュー
「北海道産天然青のりを使った鮑の磯焼き」

◎お客様の感想◎「奥が深い味で口とけが良く鼻からほどよい海の香りが良かったです。」「海苔の苦味がなく爽やかな海の香りの美味しさでした。見た目も新茶のようなやさしい緑色で料理を美しく引き立てていました。」

★高評価につき★
「リストランテアクアパッツア」では期間延長して青のりメニューを提供。また、YouTubeで紹介いただきました(4カ月で2万回再生達成)。
「分とく山」野崎総料理長は、9月に実施されたホテルニューオータニ幕張での催事でも食材としてご使用くださいました。

「リストランテアクアパッツア」YouTubeサブチャンネル
「31 北海道産アオノリを使った新作パスタ編」

■BSテレビ東京で、東京でのメニュー提供について紹介いただきました

食品分析会社による官能評価・老舗青のりメーカーの評価

当会は、2021年に収穫した北海道産天然青のり2種類のサンプルを食品分析会社と老舗青のりメーカーに送り、評価を依頼しました。その結果は次の通りです。

■食品分析会社での官能調査コメント(市販の青のりとの比較)

【ボウアオノリについて】甘味、旨味、苦味、口どけは、市販品に近い特徴がある。磯の香りがやや弱く、かたさがやや悪い。
【ウスバアオノリについて】磯の香り、苦味は、市販品に近い特徴がある。甘味、旨味がやや弱く、口どけ、かたさがやや悪い。

■老舗青のりメーカーの方からいただいた意見

  • ボウアオノリ、ウスバアオノリともに香りはある。
  • 口に入れると少しじゃりつきます。粉にして砂抜きしないと販売は難しい。
  • 乾燥の方法にも、工夫の余地を感じる。
北海道産天然青のり漁は、漁師さんによる手摘み。寒い中での根気のいる作業です。

■外部評価をうけての当会考察

”活用・商品化の可能性はあるが、特徴(良さ・悪さ)の把握とそれをふまえた検討が必要”

  • 北海道産天然青のりは市販品と比較し、かたさ(食感)などに難があるようです。それが生育環境によるものなのか、収穫後の製品化(干し方など)によるものなのかがハッキリしないため、さらなる調査が必要だと分かりました。また、収穫方法・製品化に課題があると分かった場合にはその改善策の検討が必要です。
  • 「青のり」とひとくくりにするのではなく、種類ごとに、その特徴(良さ・悪さ)を正しく理解することが重要だと分かりました。今回は一部サンプルで評価を依頼しましたが、採取場所や時期に影響されている可能性もあるため、複数サンプルを元に正確な特徴を把握する必要があります。
  • 砂の混入は、天然の岩場で手摘みすることから、完全にふせぐことは難しい状況です。大量生産の商品化基準にはそぐわないため、大手食品会社に取り扱ってもらうことは困難でしょう。別の方法での商品化や流通、砂を取りのぞく手間暇をいとわない方に買っていただく方法などを模索する必要があります。

【参考事例】函館における未利用魚「ブリ」の活用・商品化

  • 近年、北海道で急増するブリ。獲れ始めたばかりの頃は、輸送・保管中の冷却が不十分なことから品質が落ちていました。そのことが分かった現在は、漁師や水産加工会社などが冷却に取組み、品質が向上しています。
  • また、北海道のブリは小型で脂ノリが悪いなどの特徴があることが分かり、それをふまえてメニュー開発した新ご当地グルメ「函館ブリたれカツ」は地元で大人気に。全国的にも話題となっています。
函館ブリたれカツ

北海道産天然青のりを題材とした、地域の子ども向け海洋教育の推進

はこだて海の教室実行委員会は「北海道産天然青のり」を題材として、地域の子どもたちへの海洋教育推進に取り組んでいます。

2021年・2022年の秋 学校給食で青のりメニュー&海の学び提供

2021年と2022年の二年、当会は函館市内の給食食材として「北海道産天然青のり」を無償提供し、子どもたちに海の学びの機会づくりをしました。
(協力:函館市教育委員会、栄養教諭 川端先生・宮川先生、各校給食室の皆様)

2022年10月20日、計4校・1500名の児童に提供した、北海道産天然青のりを使った特別メニュー「青のり香る磯辺揚げ」。

2021年11月5日、計10校・約970人の児童生徒に提供した「青のりを練りこんだすいとん・野菜の汁もの」。

児童たちには当会から、北海道産天然青のりや海に関する学びを掲載したランチョンマットも贈呈。家に持ち帰ってもらい、ご家族と青のりについて話してもらえれば…という思いから、下敷きにもなる厚紙で制作しました。

5年生の児童向けに出前授業も行いました。

【講師の話を聞き、青のり料理を食べた子どもたちの感想】

  • 青のりの香りと、だし汁の香りがマッチしておいしかった。
  • 青のりの収穫が手摘みで、大変な作業であることを初めて知った。
  • 青のりが収穫されていないことに驚いた。将来、僕が青のりを自動で収穫できる船の開発をしたい。
  • 青のりのことをたくさん知ることができたので、家族にも話したい。

講師は最後のまとめとして
「実は今、青のりや海にはいろんな課題があり、まだ、その解決策を大人も見いだせていない状況です。函館の海の資源である、青のりが生かされていないことも、そのひとつです。もったいないですね。若い皆さんが海について考えたり、調べたりすることが、海の未来につながります。ぜひ、青のりを通じて海について考えてみてください。」
と語りかけました。

2021年11月「子ども海藻アカデミー 青のりでノリノリ!」

2021年11月21日(日)、当会は、北海道産天然青のりをテーマとする子ども向け海洋教育講座「子ども海藻アカデミー 青のりでノリノリ!の巻」を実施しました。

講座ではまず、海藻についての講義(講師:海藻活用研究会 布村さん)、未利用海藻「北海道産天然青のり」についての講義(講師:当会事務局)で、参加児童に基本的な知識を提供。

その後、北海道産天然青のりを使って板海苔づくりにチャレンジしてもらいました。子どもたちは青のりの彩りや香り、質感にふれるとともに、身近な食材「海苔」の歴史についても学びました。

お昼には、函館国際ホテル 木村総料理長から、食材としての北海道産天然青のりについてのお話や、地元食材活用への思いを聞き、特製青のりランチに舌鼓。

午後には、グラフィックデザイナー 岡田暁さんの指導で、午前中の学びや体験を生かして「北海道産天然青のり」について発信するポスター作りに取り組みました。
この講座の様子は、当会ブログにてくわしくレポートしています。

2021年11月 函館の5店で「北海道産天然青のりフェア」を開催

2021年11月13日(土)~30日(火)、当会は「北海道産天然青のりフェア」を開催しました。北海道における青のりの可能性や、はこだて海の教室実行委員会の「青のりを通じた海洋教育の取組み」について、地域の皆様に知っていただくための特別企画として開催。当会が松前町の海で特別に採取した「北海道産天然青のり」を使って、函館市内の飲食店5店が青のりメニューを提供しました。

提供メニュー(現在は提供終了)

おしま食堂(渡島総合振興局1階)
天然青のりがけ海鮮汁焼きそば
炭火割烹 菊川
百合根饅頭 鰤青のり時雨いこみ 青のりあん
函館国際ホテル レストラン アゼリア
北海道産帆立貝とたまふくら豆腐の青のりあんかけ 
レストラン ポルックス(函館空港3階)
青のり香る塩ラーメン
じゃがいもFACTORY
のりしおポテチ 

2022年11月、センチュリーロイヤルホテルにて特別メニューを提供(現在は終了)

2022年11月1日(火)より約1か月間、札幌市のセンチュリーロイヤルホテルと連携し、同ホテル19階・日本料理「北乃路」にて、未利用海藻「北海道産天然青のり」を使ったメニューを提供しました。

特別メニュー「鯛と天然青海苔入りの釜飯ランチ」は、釜飯に加え、茶碗蒸しの中に青のりの葛餡を入れて提供。また、ディナー会席の一品にも青のりメニューが加わりました。期間中、同メニューを注文したお客様には、私たち一般社団法人Blue Commons Japanが制作した北海道産天然青海苔や海に関する学びを掲載したリーフレットを進呈。さらに、先着50名様には北海道産天然青海苔の試供品も差し上げました。
→参考:センチュリーロイヤルホテル リリース資料

本事業は、次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる”日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です

一般社団法人Blue Commons Japan